研究

当研究室では、ラマン分光法を応用した新しい製剤分析技術の開発に関する研究を行っています。

 

ラマン分光法を利用した医薬品原薬の晶癖分析および凝集塊中の一次粒子解析

ラマン分光器の入射レーザーの偏光方向と医薬品原薬結晶の結晶軸とのなす角に応じて、ラマンスペクトルはわずかな変化を示します。このスペクトル変化を指標とすることによって、顕微ラマン分光法で顕微鏡下にある医薬品原薬結晶の結晶面がどの面であるのかを判別することができます。この方法によって、医薬品原薬の晶癖分析を粒子一粒単位で行うことが可能となります。

Moriyama, K., Furuno, N. & Yamakawa, N. (2015) Crystal face identification by Raman microscopy for assessment of crystal habit of a drug, Int. J. Pharm., 480, 101-106.

また、医薬品原薬の凝集塊において、一次粒子の境界面では結晶軸の向きが変化します。入射レーザーの偏光面と結晶軸とのなす角によって生じるスペクトル変化を指標としたラマンイメージングを行うと、凝集塊中での一次粒子形状を画像として得ることができます。固形製剤中での医薬品原薬は通常凝集塊となっていますが、溶出挙動に大きく影響するのはその一次粒子形状です。この手法で製剤中の一次粒子形状を画像化することにより、より緻密な製剤設計が可能になると考えられます。

Moriyama, K., Onishi, H. & Ota, H. (2015) Visualization of Primary Particles in a Tablet Based on Raman Crystal Orientation Mapping, Pharm. Anal. Acta, 6, 453.

 

気相アルキンコーティングによる医薬品添加剤のラマン可視化

固形製剤に汎用される高分子添加剤は、ラマンシグナルが弱く、また他の高分子添加剤ともよく似たラマンスペクトルを示すので、ラマンイメージングでその分散状態を把握するのは困難です。しかし、このような添加剤の製剤中での分散状態が、製剤パフォーマンスの決定要因となることも少なくなく、これらの分散状態を把握することは製剤設計において必須の事項です。当研究室では、揮発性のアルキン化合物と揮発性の3級アミンを密閉空間内で揮散させることで、不揮発性のアルキン塩が生成し、密閉空間内に共存させた高分子添加剤をこのアルキン塩でコーティングできることを見出しました。このアルキン塩は他の医薬品添加剤や医薬品原薬とシグナルが重ならない2120 cm-1付近に強いラマンシグナルを示します。追跡したい高分子添加剤をこの手法でアルキンコーティングすることで、製剤中で目的の添加剤がどのように分散したかを明瞭に可視化することができます。

Yamashita, M., Sasaki, H. & Moriyama, K. (2015) Vapor Phase Alkyne Coating of Pharmaceutical Excipients: Discrimination Enhancement of Raman Chemical Imaging for Tablets, J. Pharm. Sci., 104, 4093-4098.

 

気相ー固相反応によるアミン系医薬品原薬の選択的アルキンラベリングとその応用

上記の揮発性アルキン化合物が、揮発性アミンだけでなく、固体のアミンにも反応(気相ー固相反応)して固体アミンをアルキン修飾することを見出しました。これを利用することで、製剤中のアミン系医薬品原薬を選択的にアルキン化することが可能となり、アルキン特有のラマンシグナル(2120 cm-1)をラマンイメージングにより追跡することで、製剤中のアミン原薬の分散状態をより高感度に可視化できることがわかりました。

 

また、この手法はアミン原薬のフリー体/塩の識別にも応用できます。フリー体のアミン原薬は揮発性アルキン化合物との気相ー固相反応によりアルキン化され、ラマンスペクトル上にアルキンシグナルを与えますが、プロトン化され塩となったアミン原薬ではこの反応はおきずラマンスペクトルにアルキンシグナルは現れません。つまり固体状態のままアミン原薬がフリー体なのか塩なのかをラマンスペクトル測定により判別できます。この方法を利用すれば、製剤工程中でアミン原薬がフリー体のままでいるのか、あるいは塩となっているのかを、簡単にイメージングデータとして得ることができます。

Moriyama, K., Yasuhara, Y. & Ota, H. (2017) Visualization of Protonation/Deprotonation of Active Pharmaceutical Ingredient in Solid State by Vapor Phase Amine-Selective Alkyne Tagging and Raman Imaging, J. Pharm. Sci., 106, 1778-1785.

 

ラマンイメージングによる倍散中の医薬品原薬の均一性評価

病院や薬局内で調製される倍散は、その調製方法や調製者の熟練度によって、倍散中の原薬の均一性がまちまちであることが予測されます。特に低用量で用いる製剤や副作用に注意の必要な製剤では、倍散調製時の原薬均一性の確保は重要な懸念事項です。当研究室では、ラマンイメージングを用いて様々な調製法での原薬均一性を画像として評価し、均一性を確保するためのよりよい倍散調製法を検討しています。

Moriyama, K., Takami, Y., Uozumi, N., Okuda, A., Yamashita, M., Yokomizo, R., Shimada, K., Egawa, T., Kamei, T. & Takayanagi, K. (2016) Assessment of drug content uniformity of atropine sulfate triturate by liquid chromatography–tandem mass spectrometry, X-ray powder diffraction, and Raman chemical imaging, Journal of Pharmaceutical Health Care and Sciences, 2, 4.

 

製剤ラマンイメージングデータベースの構築

当研究室では、各種医療用医薬品やOTC医薬品の製剤断面における医薬品原薬や添加剤の分散状態をラマンイメージング法により画像化し、これをデータベースとしてインターネット経由で一般に公開しています。

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薬剤師のみなさまにはより深い製剤理解のために、また製剤研究者のみなさまには製剤のリファレンス画像集として、有用にご活用いただければと思っています。